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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和62年(ネ)125号 判決 1989年9月18日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人株式会社田代組と訴外永野衛間において別紙不動産目録1(一)(二)の物件につきなされた昭和五七年五月二七日付売買契約を取り消す。

三  被控訴人に対し、

1  控訴人田代藤夫は、前同目録1(一)の物件につきなされた鹿児島地方法務局川内支局昭和五七年五月二八日受付第六七六一号昭和三七年五月三日時効取得を原因とする所有権移転登記及び、前同目録1(二)の物件につきなされた同川内支局同日受付第六七六二号昭和三七年五月三日時効取得を原因とする所有権移転登記の、

2  控訴人株式会社田代組は、前同目録1(一)(二)の物件につきなされた同川内支局昭和五七年一一月一日受付第一三二〇一号真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記の、

各抹消登記手続をせよ。

四  被控訴人の主位的請求及びその余の予備的請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人ら(附帯被控訴人ら、以下「控訴人ら」という)

(控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人(附帯控訴人)の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

(附帯控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

二  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という)

(控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨―予備的請求の趣旨の追加)

1 控訴人株式会社田代組と訴外永野衛間において、別紙物件目録1記載(一)(二)の不動産につきなされた昭和五七年五月二七日付け売買契約を取り消す。

2 控訴人田代藤夫と訴外永野衛間において、別紙物件目録1記載(三)ないし(九)の不動産につきなされた昭和五七年五月二七日付け売買契約を取り消す。

3 控訴人株式会社田代組は被控訴人に対し、前記(一)(二)の不動産につきなされた鹿児島地方法務局川内支局昭和五七年一一月一日受付第一三二〇一号真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4 控訴人田代藤夫は被控訴人に対し、前記(一)(三)(四)(五)(六)(八)(九)の不動産につきなされた右同法務局昭和五七年五月二八日受付第六七六一号昭和三七年五月三日時効取得を原因とする所有権移転登記、前記(二)の不動産につきなされた右同法務局右同日受付第六七六二号昭和三七年五月三日時効取得を原因とする所有権移転登記、前記(七)の不動産につきなされた右同法務局右同日受付第六七六三号昭和三七年五月三日時効取得を原因とする二分の一の持分の所有権移転登記、の各抹消登記手続をせよ。

5 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は、訴外永野衛(以下、「訴外永野」という。)に対し、次のとおり債権を有している。

(一) 金四二八万三九三五円及びこれに対する昭和五五年一一月一七日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金(以下「(一)の債権」という。)。

但し、右は被控訴人が訴外有限会社味千寿(以下、「訴外会社」という。)に対し有する昭和五四年五月一〇日付立替払金債権の残元本と期限の利益を喪失した昭和五五年一一月一七日からの約定遅延損害金であり、訴外永野が連帯保証したもの。なおその残額の計算は別紙「被控訴人の債権」1記載のとおりである。

(二) 金七九五万七一〇八円及びこれに対する昭和五七年九月二九日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金(以下「(二)の債権」という。)。

但し、右は被控訴人が訴外永野に対し有する昭和五四年七月一六日付立替払金債権の残元本と期限の利益を喪失した後の昭和五七年九月二九日からの約定遅延損害金である。なおその残額の計算は別紙「被控訴人の債権」2記載のとおりである。

(三) 金四〇五万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年一一月一七日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金(以下「(三)の債権」という。)。

但し、右は被控訴人が訴外永野に対し有する昭和五五年一月一二日付公正証書に基づく債権の残元本と期限の利益を喪失した昭和五五年一一月一七日からの約定遅延損害金である。なおその残額の計算は別紙「被控訴人の債権」3記載のとおりである。

2  訴外永野は、別紙不動産目録1記載の不動産(以下、これらを「本件物件」といい、個々の不動産を進行番号に従い「本件(一)物件」などという。)を所有(ただし、本件(七)物件については、持分二分の一について)していた。

3(一)  本件(一)、(二)物件について、昭和三七年五月三日時効取得を原因として昭和五七年五月二八日鹿児島地方法務局川内支局受付第六七六一号(ただし本件(二)物件については第六七六二号をもって)をもって、控訴人田代に所有権移転登記が経由された後、真正な登記名義の回復を原因として、同年一一月一日同支局受付第一三二〇一号をもって控訴人会社に所有権移転登記手続が経由されている。

(二)  本件(三)ないし(九)物件については、昭和三七年五月三日時効取得を原因として、昭和五七年五月二八日右支局受付第六七六一号(ただし本件(七)物件については第六七六三号)をもって、控訴人田代に所有権移転登記が経由されている(もっとも本件(七)物件については訴外永野は持分二分の一の共有であったため、右控訴人の移転登記をうけた持分も二分の一となっている)。(以下、右(一)、(二)を通じて、昭和五七年五月二八日に控訴人田代に対してなされた移転登記を「本件(一)登記」といい、昭和五七年一一月一日に、控訴人会社に対してなされた移転登記を「本件(二)登記」という。)

4  訴外永野は、現在資産及び収入はまったくなく無資力である。

5  本件(一)(二)の各登記は、いずれも実体関係を有しない無効なものであるところ、訴外永野は控訴人らに対しその抹消登記請求権を行使しない。

6  よって、被控訴人は控訴人らに対し、前記債権を保全するため訴外永野に代位して本件登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2、3の各事実は認める。

3  同4、5、6はいずれも争う。

三  控訴人らの抗弁

1  控訴人ら及び訴外松元才蔵(以下「訴外松元」という。)は、昭和五七年五月二七日、訴外永野から本件物件及び別紙不動産目録2記載の不動産(以下「件外物件」といい、個々の不動産を進行番号に従い「件外(一)物件」などという。)を次のとおり代金合計五五〇〇万円で買い受けた(以下、総称して「本件売買」という。)。

(一) 控訴人会社買受分

本件(一)(二)物件につき代金三五〇〇万円

(二) 控訴人田代買受分

本件(三)ないし(九)物件及び件外(一)(二)物件につき代金一〇〇〇万円

(三) 訴外松元買受分

件外物件(三)ないし(五)物件につき代金一〇〇〇万円

なお本件土地のうち、(三)ないし(九)物件は農地であり、農業委員会の許可が必要であるため、控訴人らは、請求原因3記載のとおり便宜的に全部の土地につき時効取得を原因として所有権移転登記を経由したが、控訴人田代は昭和六一年七月二八日、農地である右(三)ないし(九)の土地につき川内市農業委員会から農地法三条に基づく所有権移転の許可を受けた。

2  また、訴外永野は、本件売買による所有権移転登記について、控訴人らが便宜的に時効取得を登記原因とすることを承諾していたものであるから、本件各登記を無効として抹消登記を求めることは信義則に違反し許されず、訴外永野には本件各登記の抹消登記請求権はない。

四  抗弁に対する認否及び主張

1  抗弁事実はいずれも不知または争う。

2(一)  農地である本件(三)ないし(九)物件の売買契約については農業委員会の許可のあった昭和六一年七月二八日にその効力が生じるところ、被控訴人はそれより以前の昭和五九年一月三〇日に、本件各土地につき、鹿児島地方裁判所川内支部において処分禁止の仮処分決定を得、右同日その旨の登記を経た。したがって、控訴人田代は右(三)ないし(九)の土地売買について被控訴人に対抗することができない。

(二)  債権者代位権を行使する債権者が適法に代位権の行使に着手した後は、その債務者は当該権利を消滅させるべき行為等一切の処分をすることができない。そして訴外永野は、農業委員会に対し本件売買による所有権移転について許可の申請をする際、登記簿により被控訴人が前記仮処分をしていることを当然に知り得た。したがって、訴外永野がこれを知りながら農業委員会に許可を申請する行為は、実体を有しない無効な登記を売買による所有権移転に流用して有効たらしめようとする行為として処分行為に該当し、許されないものといわざるを得ないので、その結果なされた許可は効力を有しない。

五  被控訴人の再抗弁

1  本件売買は、訴外永野が控訴人田代及び訴外松元と通謀の上、債権者からの追及を免れるため控訴人らに売り渡したように仮装したもので、通謀虚偽表示により無効である。

2  仮にそうでないとしても、被控訴人は以下のとおり債権者取消権に基づき本件売買契約を取り消す。

(一) 訴外永野は、右売買当時の昭和五七年五月ころ、被控訴人に対し前記請求原因1記載の債務を負っていたほか、訴外会社の負担する約二、三億円の債務につき連帯保証していた。

(二) そして訴外永野は、本件物件及び件外物件以外に見るべき資産はないにもかかわらず、被控訴人のほか他の債権者を害することを知りながら敢えて本件物件を控訴人らに売り渡したものである。

よって、被控訴人は予備的請求として、本件売買契約を取り消したうえ、その原状回復として控訴人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求める。

六  再抗弁に対する認否及び主張

1  再抗弁事実はいずれも争う。

2  訴外永野は売買代金をもってその債務の返済に充てる目的で本件物件を控訴人らに売り渡したものであり、その代金額は時価相当額であって、しかも訴外永野は代金の大部分を債務の返済に充てている。したがって本件売買は正当な処分行為として詐害行為に該当しない。

七  控訴人らの再々抗弁

(債権者代位権の主張に対して)

1 仮に本件売買が無効であるとすると、控訴人らは訴外永野に対し売買代金全額を支払済みであるから、同人からその返還を求めることができる。そして本件登記の抹消登記義務と右代金返還義務は同時履行の関係にあるものというべきであるから、控訴人らは、被控訴人または訴外永野から右代金の返還があるまで本件抹消登記手続を拒絶する。

(債権者取消権の主張に対して)

2 控訴人らは、本件売買契約当時、被控訴人の訴外永野に対する債権の存在を知らず、被控訴人を害する意思はなかった。

3 仮に本件売買が詐害行為にあたるとすれば、その取消の基礎となるべき被控訴人の債権は、本件売買当時の債権額が基準となり、取り消しうる範囲も右債権額の範囲に限られる。そして右債権額につき被控訴人は、仮差押解放供託金取戻請求権の転付命令により取得した金四四九万二八〇〇円を遅延損害金に充当しているが、その全額を(一)の債権の元本に充当すべきである。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁事実はいずれも争う。

第三  証拠の関係(省略)

理由

一  請求原因事実中2、3の各事実はいずれも当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一〇ないし第一四号証、第二二号証、第二三号証の一、乙第二〇号証、及び、原審及び当審証人松元才蔵の証言及びこれにより成立を認める乙第三号証の一、二、並びに弁論の全趣旨を総合すると、同1、4の各事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

二  そこで控訴人らの抗弁(売買契約の成否)について検討する。

前掲各証拠、及び、成立に争いのない甲第一ないし第九号証、第一七、第一八号証の各一、二、乙第八ないし第一〇号証、第一四ないし第一七号証、第二二、第二三号証、第二六号証の一ないし七、第二八ないし第三〇号証、前記証人松元の証言により成立を認める乙第一、第二号証、第四ないし第七号証、第一一ないし第一三号証、第一八、第一九号証、第三一号証、第三二号証の二、第三三号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二七号証の一(官署作成部分は成立に争いがない。)、当審における控訴人田代本人尋問の結果を総合すると次のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

1  訴外永野は訴外会社の代表取締役であり、同会社は昭和五六年二月二日、約三億円以上の負債を抱え自己破産の申立をして倒産したが、訴外永野は、同会社のチェーン店の店舗改装費用等として個人で被控訴人に対し請求原因1記載のとおりの債務を負っていたほか、訴外徳島信用金庫(以下「徳島信金」という。)に対し約金三八〇〇万円の、訴外橋本初枝(以下「訴外橋本」という。)に対し約金一〇〇〇万円以上の債務を負っており、さらに同会社の債務についても連帯保証していた。

2  そして徳島信金は、昭和五七年三月一一日、本件(一)(二)(五)(六)(八)の物件につき設定されていた極度額三〇〇〇万円の共同根抵当権に基づき任意競売の申立をし、訴外橋本は、同年四月二八日、金一〇〇〇万円の債権に基づき本件物件及び件外物件につき仮差押をし、さらに被控訴人は、同年五月四日、請求原因1(一)の債権の内金四四九万二八〇〇円に基づき、当時被控訴人が訴外永野の資産として覚知していた本件(一)(二)(五)(六)物件につき仮差押をした。

3  訴外永野の資産としては、本件物件及び件外物件のみで他にみるべき資産はなく、本件(一)(二)物件には訴外永野の実母永野キミが一人で居住していたところ、訴外永野は、右競売等が実行されれば母キミが右土地建物で居住できなくなることをおそれ、同年五月ころ司法書士である訴外松元に対し、右事情を説明したうえ、本件物件及び件外物件をどのように処分してもよいから、キミが終生前記建物に居住できるような適当な方策を立案し、実行して貰いたいと依頼し、その希望する処分価額を本件物件及び件外物件の全体で六五〇〇万円と告げた。

4  訴外松元は、右依頼の趣旨を実現するため、訴外永野の負債の状況を調査し、前記の差押え債権、仮差押え債権の各金額と本件物件及び件外物件の時価を考慮し、右各物件を合計五五〇〇万円で売却できれば、その右代金の範囲内で前記差押え、仮差押えが解放できるものとの見込を立てた。しかし訴外松元は、資金がないので、同年五月二〇日ころ、かねて信頼を寄せていた控訴人田代に対し、訴外永野の土地が競売になるが、そうなれば永野の母が居住できなくなるので、絶対に迷惑を掛けないし自分も一〇〇〇万円出すから引き受けてくれないか、先方は代金を六五〇〇万円程度といっているが、五五〇〇万円ぐらいでどうかといって、訴外永野の母を本件(一)(二)物件に終生居住させることを条件に、訴外松元と共同で本件物件及び件外物件を代金五五〇〇万円で買受けるよう勧めた。

控訴人田代は、右申出に応じ、本人及び控訴人会社の代表者として、同訴外人との間で、訴外松元が件外(三)ないし(五)物件を代金一〇〇〇万円で、その余の件外物件及び本件物件を控訴人らが合計四五〇〇万円で買受け、控訴人ら間での振り分けは後日控訴人田代において決定するところに従うことを合意し、控訴人田代は、本人及び控訴人会社の代表者として、訴外松元に対し、右条件で本件物件及び件外物件を買受けるにつき必要な一切の権限を授与した。

訴外松元は、その後の調査で、被控訴人の前記仮差押えが債権の二分の一の金額を被保全債権とするものであることを知り、早急な登記名義の変更が新たな執行の回避のみならず被控訴人との交渉上も得策であると考え、訴外永野との間で、同年五月二七日、訴外永野は訴外松元に対し、本件物件及び件外物件を代金五五〇〇万円で売り渡し、訴外松元は訴外永野に対し、右代金として、昭和五七年六月一〇日金四五五〇万円、同年一〇月末日金九五〇万円を支払うことと、訴外永野は、本件物件につきなされている徳島信金の根抵当権(負債総額三八〇〇万円)を弁済によりその抹消登記及び競売申立ての取り下げを受け、また被控訴人及び訴外橋本の仮差押えについては、弁済又は被保全債権額の供託等の方法により、その解放を受けること、訴外永野は、新たな競売、仮差押えを免れるため、早急に本件物件及び件外物件の登記名義を一応控訴人田代に変更することを承諾すること、訴外松元は永野キミに対し、同人の死亡まで本件(一)(二)物件を賃貸すること、訴外松元がその売買代金調達の都合上、以上の約定による買主の権利をどのように処分しても、訴外永野は異議がないこと、訴外永野は訴外松元に対し、右各約定にもとづく登記申請手続をする権限のほかに、債権者と交渉し、前記根抵当権の抹消登記、競売申立ての取り下げ、仮差押えの解放を受けるため、必要な一切の行為をする権限を授与し、またそのためにする右売買代金の使用を承諾すること、などを合意した。

控訴人田代は、控訴人会社が本件(一)(二)物件を代金三五〇〇万円で、控訴人田代がその余の本件物件及び件外物件を代金一〇〇〇万円でそれぞれ買受けることにし、訴外松元にその旨通知した。

そして訴外松元は、ただちに本件物件及び件外物件の所有権移転登記をしようとしたが、本件物件及び件外物件の大部分は農地であり、農業委員会の許可を得るまでには時日を要するので、その間にあらたな差押等がなされないように本件物件及び件外物件の全てにつき登記原因を時効取得として控訴人田代のために登記することにし、同年五月二八日付けで請求原因3記載の本件各登記を経由した。

なお本件(一)(二)物件の売買及び登記について、前記のとおり、訴外松元は当初控訴人らから全面的に委ねられていたので、本件物件の全部について便宜的に同控訴人名義で登記したが、控訴人会社買受物件である(一)(二)の物件につき真正な名義回復を原因として控訴人会社所有名義に変更した。

5  そして訴外松元は、徳島信金や訴外橋本と、さらには被控訴人とも折衝し、その結果徳島信金とは金三〇〇〇万円の支払で競売を取り下げてもらう旨の、訴外橋本とは金一〇〇〇万円の支払で仮差押を取り下げてもらう旨の、各約束をとりつけた。そして被控訴人に対しては、仮差押にかかる請求金額を支払うので仮差押を取り下げてほしい旨申し込んだが、被控訴人は右仮差押は債権の一部によりなしたもので他に約金一〇〇〇万円以上の債権があり、その返済がなければ仮差押を取り下げることはできないと主張してこれを拒絶した。

6  前記売買代金の支払については、同年六月一〇日、徳島信金の訴外松元の口座に、控訴人らから合計金四〇五〇万円が、訴外松元から金五〇〇万円が各振込送金され、翌一一日、さらに右口座から訴外永野を経由することなく直接徳島信金に金三〇〇〇万円が、訴外橋本に金一〇〇〇万円が支払われ、この結果徳島信金は同月一六日に競売申立を取り下げ、訴外橋本もそのころ仮差押えを取り下げた。

そして被控訴人による仮差押の関係では、訴外松元は同月一二日に、前記売買代金のうちから仮差押解放金として金四四九万二八〇〇円を供託して、同月一八日に仮差押の取消決定を得た。

また残金九五〇万円については、同年一〇月二九日訴外永野に対し、控訴人会社から金四五〇万円が、訴外松元から金五〇〇万円が支払われた。

7  その後訴外松元は、控訴人田代のため訴外永野を代理して、本訴係続中の昭和六一年七月一〇日に本件(三)ないし(九)物件につき川内市農業委員会に対し農地法三条に基づく許可申請をし、同月二八日にその許可を得た。

以上の事実によると、訴外永野と控訴人ら及び訴外松元との間で、抗弁1記載のとおり本件売買契約が有効に成立した(但し、本件物件中農地である(三)ないし(九)物件については、農業委員会の許可を停止条件とする売買契約が成立したものと認めるべきである。)ことを認めることができ、これに反する被控訴人らの主張は採用できない。

また被控訴人は、本件売買契約が通謀虚偽表示により無効である旨主張するが、右事実によると訴外永野がどのような処分をされてもかまわないとして訴外松元に処分を一任し、真実本件物件の所有権を他に移転する意思であったことが明らかであるし、控訴人ら及び訴外松元が、事業に失敗して回収できる見込みのない訴外永野のために金五五〇〇万円もの金員を出捐する合理的理由は認められず、他に本件売買契約が仮装であるとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、被控訴人の控訴人らに対する債権者代位権に基づく請求は理由がないことになる。

三  そこで次に債権者取消権の主張について検討するに、右認定の事実によると、訴外永野は、多額の債務を負い、本件物件及び件外物件以外にはみるべき資産もなく、これを処分すれば被控訴人ら債権者を害することを知りながら敢えてこれらを売却したものというべきで、本件売買は詐害行為にあたるものということができる。

控訴人らは、本件売買が相当価額によるもので、かつ債権者への弁済に充てるためなされたので詐害行為に該当しない旨主張するが、前認定の事実からすると、本件売買は特に被控訴人の債権を害する目的を有するばかりか、本件売買代金は、当時競売申立や仮差押をしていた知れたる債権者の債権額(徳島信金約三八〇〇万円、訴外橋本約一〇〇〇万円、被控訴人約四四九万円の合計約五二四九万円)を参考として決められたことが推認され、これが時価相当額であるとの証明は不十分といわざるを得ないし、また、件外物件も含めた総代金額のうち金一〇〇〇万円もの金額が訴外永野に交付され、同人が費消しているのであって、結局全体としては債権者への弁済として有用な使途に供されたものともいうことができない。したがってこの点の控訴人らの主張は採用できない。

また控訴人らは、本件売買につき害意がなかった旨主張するが、前認定のとおり訴外松元は、訴外永野から負債の整理を依頼されて本件物件を買い受けることになり、事前に同人の負債の状況を聞き、また自らも調査してその債権者ら並びに債権額を把握していたもので、また被控訴人の債権額についても仮差押決定書から請求債権額が一部請求であることを当然に知っていたものと認められ(これに反する訴外松元の証言部分は措信できない)、したがって本件物件を買い受ければ訴外永野の資産が滅失し債権者を害することを知っていたことが明らかというべきであり、控訴人らの主張はこれを認めることができない。

ところで、債権者取消権によって保全されるべき債権の範囲は、債権者取消権を行使する債権者の詐害行為時における債権に限られるものの、これについての遅延損害金は詐害行為時以降に発生した分も含まれると解されるところ、前記一認定の事実(請求原因1の事実)により詐害行為時である昭和五七年五月二七日の時点における被控訴人債権額(遅延損害金を含む)を算定すると、(一)ないし(三)の債権合計額は別紙詐害行為時における債権額記載のとおり金二三九五万五六三四円となり、詐害行為の後に(二)の債権の強制執行としてなされた前記の仮差押解放供託金取戻請求権の差押及び転付命令により被控訴人が受領した金員を弁済として差し引いたとしてもその時点で合計約二〇〇〇万円であることが認められる(控訴人らは、右供託金全額を(一)の債権の元本に充当すべきであると主張するが、仮差押解放金額の性格に照らすと、右主張は採用できないし、また充当すべき債権については(一)(二)の債権のいずれに充当しても算定上は結果において異ならない。)。

右債権額を基準として詐害行為取消権行使の目的物の範囲について検討するのに、詐害行為取消権の制度の本質からして、詐害行為により逸失した財産自体の回復が可能である場合には、できるだけこれを認めるべきである。本件物件の詐害行為当時の時価相当額については前認定のとおり判然とはしないが、少なくとも控訴人会社は、宅地とその地上建物である本件(一)(二)物件を一括して金三五〇〇万円とし、控訴人田代はその余の農地である(三)ないし(九)の物件を一括して金一〇〇〇万円として買い受けたものである。控訴人田代の買受土地のうち本件(五)(六)及び(八)の物件には、控訴人会社の買受土地と共同の極度額三〇〇〇万円の根抵当権が設定されていたところ、控訴人田代の買受土地全体の価額は右抵当権の被担保債権額を下回るから、同控訴人の買受土地は取消の対象とならないが、控訴人会社の買受けた本件(一)(二)物件の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額は、詐害行為取消権の基礎となっている債権の額を下回るから、同控訴人の買受けた右物件全部を取消の対象として、右物件自体の回復を認めるのが相当である。また、右物件の根抵当権は既に抹消されていて、現在その価額は詐害行為取消権の基礎となっている債権の額を超えていると見られるから、右物件の範囲でのみ回復を認めることにより詐害行為取消の目的を十分達成でき、それ以上の回復を認めるべきではない。そうすると、本件において被控訴人の取り消し得る詐害行為は、控訴人会社の本件(一)(二)物件の売買に限定されるものといわなければならない。

よって被控訴人は、控訴人会社に対し、右取消による原状回復として、控訴人会社が控訴人田代から受けた本件(二)登記の抹消を求めることができる。また右取消により本件(一)(二)物件の所有権が訴外永野に回復されたのであるから、被控訴人は控訴人田代に対し、債権者代位権に基づき、右物件につきなされた本件(一)登記の抹消を求めることができ、例え訴外永野が当初同控訴人に対し本件(一)登記をすることを承諾していたとしても、右登記抹消請求は信義則に違反するものではないというべきである。控訴人らは、売買代金の返還があるまで本件登記抹消手続を拒絶する旨主張するが、控訴人田代は本件(一)(二)物件の買主ではなくその代金を支払っていないから、訴外永野に対し同時履行の抗弁を提出することができない。

四  以上によると、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、本件売買中訴外永野と控訴人会社との間の本件(一)(二)物件の売買契約の取消、及び、本件各登記のうち同物件に関しなされた主文三項掲記の各登記の抹消登記手続を求める範囲で理由があるものとして認容すべきで、その余は失当として棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、九二条、九三条、八五条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙不動産目録1、2は、第一審判決添付目録と同一のものにつき省略)

別紙

被控訴人の債権

<省略>

<省略>

<省略>

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